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小さな小説集 正気と狂気の間 ブログトップ
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レダになった順子と市川海老蔵と芸能リポーター [小さな小説集 正気と狂気の間]

順子は「レダ」になった。
なったというより、生まれつきレダなのかもしれない、と順子は思う。

(わたしは「レダ」だもの、世界は美しい)
「そう、世界は美しいのだ」
順子はテレビを付ける。
市川海老蔵が映っている。
(うん、海老蔵は美しくなくもない)
順子はうなずく。
ところがである。
女リポーターの声が聞こえてきたのである。
「お互いを何と呼び合っているのでんですか?」
「うが・・うががが」
いけない・・順子の発作がまた始まる。
「ウが、うがががが・・。醜い、醜すぎるのよ。ああ醜い。
なんでテメエに聴かれなきゃなんねえんだよお。
テメエは旦那とどう呼び合ってんだ・・なんて絶対聴きたくねえんだよお。
だいたいテメエみてえな女とつきあう男、いるのかよお」
(ハッ)
順子は我に帰る。
(いけない・・わたしはレダなのに)

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地方中小食品会社社員磯部、「手放し運転男」について何度も反芻せざるを得ない [小さな小説集 正気と狂気の間]

磯部は反芻するのだ。
いや、磯部の心が勝手に反芻する。
「自転車を手放し運転する男」の姿を。
同一人物ではない。
しかしそれにしては共通点が多い。

「手放し運転」、そしてやたらとスピードを出している。
表情は決まって嬉しそうだ。
中には鼻歌まじりに見える奴もいる。

なぜスピードを?なぜ嬉しそうに?なぜ鼻歌を?
磯部は考えても分からない。
だから反芻してしまうのか?
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地方中小食品会社社員磯部、「手放し運転男」を見かけ過ぎる [小さな小説集 正気と狂気の間]

磯部は首を捻った。
(なんで俺はよく見かけるのだろう)
磯部がよく見かけるものは「自転車を手放し運転する男」である。
そりゃあ世の中には手放し運転をする人間もいるだろう。
それにしても磯部が見かける頻度は高いような気がしている。
しかもそれは同一人物ではない。
必ず違う男が手放し運転しているのだ。
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「分かってるよ」 [小さな小説集 正気と狂気の間]

「もしもし」
正史の声だ。
なぜこんなに緊張する。
なぜ心臓は激しく動く。
「あの、わたし」
「分かってるよ」
(分かってるよ?)
秒速で嗚咽がこみ上げる。
けれど江里子は大人だ。すぐに切るなんてことはできない。
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(気にしてないよ) [小さな小説集 正気と狂気の間]

江里子は携帯を手にした。
さきほどからかけるタイミングを計っていた。
本当は気になって仕方ないのだが、(気にしてないよ)と自分に言い聞かせていた。
(気にしてないよ)と自分に言い聞かせたら、正史にも(気にしてないよ)という気持ちが伝わると信じているかのように言い聞かせた。
もちろん江里子は大人の女だ、そんなことは信じていない。
信じてはいないけれど、(気にしてないよ)と心で正史に呼び掛けた。
正史の番号を呼び出す。
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地方中小食品会社の副社長佐野、休日に磯部を思い出す。 [小さな小説集 正気と狂気の間]

休日、子どものお伴で遊園地に行った佐野を周囲は副社長と扱ってくれない、認識してくれない。
雑踏の中、背の高い男が佐野にぶつかる。
「ぶつかんなよ、おっさん!」
2人の娘の前で佐野は若い男に怒鳴りつけられる。
一瞬相手を睨みかけるが、黒々とした顔にサングラスをかけた男の首にはタトゥーが覗いている。
佐野はすぐに目を逸らす。
佐野の脳裏には磯部が浮かぶ。
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順子はレダ?白鳥は? [小さな小説集 正気と狂気の間]

「白鳥は君の部屋へ来て何をしたの?」
「レダと白鳥のしたことは分かっているでしょう」
「白鳥はレダを犯した」
「犯されたんじゃなく、二人は愛し合ったの」
「それはおかしいんじゃない?」

誰と話しているんだ?
誰と話してるの、順子?

順子は問う。
もう一人の順子は何も答えない。

レダはスパルタ王ティンダリオスの妻。
白鳥はゼウス。
レダは白鳥は寝室にやって来た白鳥と愛し合った。

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開きたくない小枝子からの手紙 1 [小さな小説集 正気と狂気の間]

聡子はあまり手紙の封を開けたくなかった。
小枝子からの手紙だ。
大学を卒業してからもう30年。
1年に1度も小枝子とは会うことがない。
けれど思い出したように、急に「お茶飲まない」という電話がかかってくることがある。
「ちょっと忙しいので」と断ると、必ず1週間以内に手紙をよこす。
しかもかなり長文の手紙だ。
内容は読まなくても見当がつく。
見当はつくけれど、読めば必ず1週間以上不快な気分が続く。
聡子はリビングのテーブルに手紙を置き、しばらく眺めた。
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順子は「レダ」だと言った。 [小さな小説集 正気と狂気の間]

順子はよくテレビに出てくる女芸人に似ていると言われた。
しかしテレビをほとんど観ない順子は、その女芸人の顔を知らない。

順子は「わたしはレダだ」と言った。
順子はもう一度、「わたしはレダだ」と言った。
「昨夜白鳥が来たの」
順子の目は順子を見ている。
「だからわたしはレダだと分かった」
順子は言う。
「だから白鳥は昨夜わたしの部屋へ来た」
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莉子の決心 [小さな小説集 正気と狂気の間]

莉子はとうの昔に決心していた。
(答えない)
山下のやや赤みを帯びた頬が笑っている。
それでもほんの少し間を置いた莉子に
「いるんでしょ、彼氏」とたたみかける。
莉子は刺すような笑顔を浮かべて言った。
「そんな質問には、お答えできません」
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